後遺障害が認定されないのはなぜ?非該当の場合の対処法
交通事故被害に遭い、怪我の治療を続けていても、最終的には完全に治らず、後遺障害が残ってしまうケースは少なくありません。
このとき、被害者にできることは、「後遺障害認定の申請」を行うことです。
後遺障害が認定されれば、適正な賠償を受けられます。
しかし、後遺障害が残ったからといって、その場合に、その症状が、法律上の後遺障害として認定されるかというと、必ずしもそうではありません。
症状が残っている場合でも、法律上は「後遺障害非該当」になってしまうこともあります。
今回は、非該当になってしまった場合に考えられる原因や、非該当の場合のデメリット、さらに、その後の対応を説明します。
1 後遺障害認定で非該当になる理由
まずは、後遺障害認定で非該当になる理由について詳しく説明します。
事故に遭い、何か月か治療しても、怪我が完全には治らず、後遺障害が残った場合は、自賠責保険に対し、後遺障害の認定を請求することになります。
しかし、後遺障害が残った場合でも、自賠責保険は、「それは自賠法上の後遺障害はあたらない」と認定することがあります。
非該当の理由は文書で開示されるのですが、おおむね、以下のような内容が記載されていることが多いです。
- ・自覚症状を裏付ける客観的な所見に乏しい
- ・他覚的に裏付ける医学的所見に乏しい
- ・画像上は外傷性の異常所見は認められない
- ・将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえない
- ・事故受傷との相当因果関係が認められない
ただ、このような記載を一読しただけでは、非該当の具体的な理由はよくわからないと思います。
そこで、もう少し具体的に、非該当の理由を検討してみます。
⑴ 必要な検査が足りていない
「自覚症状を裏付ける客観的な所見に乏しい」「他覚的に裏付ける医学的所見が乏しい」「画像上は外傷性の異常所見は認められない」という記載は、どれも同じような意味で、結局のところ、「自覚症状に対する医学的な裏付が足りない」というようなことを述べています。
後遺障害認定のためには、自覚症状に対する医学的証明までは不要ですが、一応の医学的裏付は必要と考えられています。
だから、たとえば、自覚症状はあるものの、どんな検査をしても異常が全く見つからないということだと、なかなか後遺障害ありとは認定されにくいです。
そのような理由で非該当となる場合は、先にみたような表現が用いられます。
つまり、医師による当該症状を基礎付ける意見や、画像所見や他の神経学的検査が足りないということです(とはいえ、様々な検査をしても結局異常が見つからない場合もあるので、難しいところです)。
なお、その前提として、自覚症状を医師にきちんと説明しておくことも重要です。
⑵ 通院期間が短い、通院回数が少ない
次に、「将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえない」という記述があるとすると、現時点では症状は残存しているものの、それは、将来的には治るであろうと認定されたということです。
どういう場合にこのような認定がされるのかというと、たとえば、症状固定までの期間が極端に短いとか、通院頻度が少ない場合などは、このように認定されることがあるようです。
痛みを我慢せず、治るまで、きちんと通院することが大切です。
⑶ 事故後しばらくしてから治療をはじめた、治療途中に新たな症状があらわれた
「事故受傷との相当因果関係は認められない」という記述がある場合は、そもそも、症状と事故が無関係だと認定されたということです。
たとえば、事故後しばらくしてから治療をはじめたとか、治療途中に新たな症状があらわれたというような場合、それらの症状は、事故とは無関係だろうとみられてしまうところであり、注意が必要です。
【非該当結果は等級獲得のケースより通知が早い】
後遺障害等級認定の申請準備を行い、認定機関に必要書類一式を送付した後は結果を待つだけとなります。
通常、認定までには少なくとも1か月以上はかかりますが、非該当の場合は、等級獲得のケースに比べて、かなり早めに通知が届くという傾向があるようです。
2 非該当の場合のデメリット
次に、非該当結果となってしまったケースでのデメリットをお伝えします。
⑴ 後遺障害慰謝料がもらえない
まず、デメリットとして考えられるのは、後遺障害慰謝料がもらえなくなるということです。
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ってしまった場合に支払われる慰謝料で、後遺障害が残ってしまった精神的損害に対する金銭的賠償です。
入通院慰謝料(怪我に対する慰謝料)とは別個に請求できるものであるため、被害者にとっては大きな救済となるものです。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級が獲得できたことを前提に支払われます。
後遺障害等級は1等級〜14等級まであり、1級が最も重く、14級が最も軽い等級です。
等級ごとに慰謝料額が定まっているため、これに該当しない結果となってしまった場合には、基本的には後遺障害慰謝料は支払われません。
例えば、「むちうち症で12等級該当」の場合の後遺障害慰謝料は290万円です(弁護士基準/裁判基準による。)。
一方で、同じむちうちでも、14等級の場合の後遺障害慰謝料は110万円です(弁護士基準/裁判基準による。)。
非該当となった場合は、基本的に、後遺障害慰謝料自体がもらえません。
⑵ 逸失利益がもらえない
逸失利益についても同じことがいえます。
逸失利益とは、後遺障害が残ったことにより得られなくなった将来の収入のことです。
加害者にその補填を請求できます。
ところが、非該当の場合は原則として逸失利益を請求すること自体ができません。
実際に交通事故被害に遭われ、後遺障害が残ってしまった方は、毎日痛みやしびれ、これに伴う不調などに苦しまれていることと思います。
場合によっては、怪我により働けなくなってしまった方もいらっしゃいます。
逸失利益は将来の収入を補償するものであり、重要な損害賠償項目なのです。
逸失利益は、【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数】によって計算します。
ここにある「労働能力喪失率」は、後遺障害の等級ごとに定まっているため、等級が下がれば逸失利益の額も減り、非該当となれば原則としてそもそももらうことができません。
このように、非該当となると、損害賠償額全体が少なくなってしまうデメリットがあるのです。
3 非該当になってしまった場合の対応
最後に、非該当結果になってしまった場合の対応を説明します。
⑴ 異議申立てを行う
自賠責保険の後遺障害認定の結果が非該当であった場合、これに対して異議申し立てをすることができます。
「異議申立て」とは、後遺障害認定の結果に不服がある場合に、これに対して不服申し立てをして、再審査してもらうという手続です。
審査は何か月かかかります。
ただ、統計上は、異議申し立てで結果が覆る可能性は1割程度のようです。
また、非該当の理由を分析し、これに的確な反論をして、認定の誤りを主張しなければなりませんので、異議申し立てをお考えであれば、弁護士への依頼をおすすめします。
なお、非該当となったものの、後遺障害は残っていると主張して、異議申し立てを経由せずに、後遺障害があることを前提に訴訟を起こすこともできますが、これもなかなか難度の高い手続になります。
⑵ 「被害者請求」で手続きを行う
後遺障害認定には、「事前認定」「被害者請求」という2種類の手続きがあります。
前者は、加害者側保険会社に手続全般を任せるやり方で、手間はかかりません。
一方、後者は、自分でいろいろな書類を準備して、自賠責保険に対して、直接、後遺障害認定を求めるやり方で、正直、大変です。
そのため、一般的には、弁護士をつけない場合は、事前認定を用いる方が多いようです。
ただ、異議申立てを行う場合は、被害者請求で手続きを行うことをおすすめします。
被害者請求は被害者が手続きを進めていかなければならず、手間と時間がかかるのがデメリットです。
しかし、逆にいうと、後遺障害認定のためにどのような資料が足りないかを考え、工夫することで、後遺障害が認定されやすくなるという側面もあります。
希望等級を獲得したい、非該当リスクをなるべく回避したいという方は、ぜひ被害者請求を選択してください。
手続きが難しいと考える方は、後遺障害認定に慣れた弁護士に任せれば安心です。
手続きへの知識不足も補えるため、万全の体制で臨むことができます。
また、加害者側保険会社との交渉の場面でも、慰謝料の基準が弁護士基準(裁判基準)となるため、慰謝料アップも期待できます。
⑶ 必要な資料はしっかり集める
非該当結果の理由でご説明した通り、非該当になってしまった原因として、資料不足が考えられます。
必要な検査を受け、検査結果を集めることが大切です。
また、画像所見に対する医師の適切な意見も重要です。
場合によっては、主治医が手続にあまり協力的でない場合もありますので、そのような場合は、協力医を探す必要があります。
このように、非該当の場合でも挽回する方法はあります。